オススメの小説『蜜蜂と遠雷』
小説って何が面白いんだろう。
私は大学生になるまで、本を読んだことがなく、ある種の偏見を持って本に接してきました。
活字だけで情報量の乏しい本よりも、画像がある、あるいはそれが動く、音声もある。漫画や、アニメ、映画の方がずっと面白いと思って生きてきました。
そんな私が大学生になって本の魅力、活字の魅力にどっぷりと使ってしまった。
そんな私が、オススメする本を紹介させていただきたいです。
恩田陸さんの蜜蜂と遠雷。直木賞受賞作です。私の大好きな作品の1つです。
この本は、他のエンターテイメントにはない、本ならではの魅力が強い作品であり、その魅力は、広い意味で本を読む理由のひとつ足り得ると思います。
この本は究極のVR、ないしは体験型のエンターテイメントである、という魅力です。
どういうことか。
この作品では、ピアノに精通し、ピアノに人生を注いでいるピアニストたちの青春が書かれています。
作中で私たちが文字を追う、その時の視点は、そうしたピアノが大好きで、音に敏感な音楽家たちです。
彼ら彼女らの視点を追うことで、私たちは音楽家として、音楽を感じることができるのです。
例えば、少しも音楽に詳しくない私がオーケストラのコンサートに行っても、音楽に詳しい人が感じるように感じることはできませんし、彼らが楽しむように楽しむことはできません。
他のことでも同じです。サッカーを全然知らない人と、サッカーが大好きで自分でもプレイしていた人とでは、同じ試合を見ても、感じ方や、注目している箇所は大きく異なると思います。
どれだけVRが発達しても、結局その景色を見るのは、その体験をするのは、自分です。その光景を、体験を、解釈するのは自分の頭です。
でも本は違います。作中に音楽に詳しい人物がいて、彼の視点で物語が進めば、彼がどんな風に音楽を感じているのか、文字をたどることで、自分の脳内で、追体験することができます。
私自身、自分はこんな風に音楽を聞くけれど、音楽に詳しい人は音楽をこんな風に楽しむことができるのか、と自分の知らなかった世界を味わうことができました。
ピアノコンクールなんて少しも興味がありませんでしたが、この本をきっかけに私はピアノのコンサートに行きました。でも少しもこの作品に登場した人物たちのような感じ方をすることはできませんでした。
そこで私はピアノを始めて見ました。少しずつですが上達して、ピアノについて知っていく中で、これまでであれば「なんとなくすごいなあ」と思っていた『ピアノの弾いてみた動画』も大きく違って見えてきました。どこがどう凄いのか、わかるようになってきていたのです。
この作品で、音楽家の音楽の感じ方という新しい世界を知り、自分自身でピアノを始めて、私の世界は大きく広がったと思っています。
本は自分が知らない分野のことでも、その分野に精通した人物の視点でその事象を体験し、その感じ方を追体験できる。
これこそ他のエンターテイメントにない本ならではの魅力であると思います。
この「蜜蜂と遠雷」はついこないだ文庫版も出ました。
よかったら読んでください。この作品があなたにとっての最初の一冊になれば、とても嬉しいです。